日本近世文学会では近年、専門知を広く社会に向けて開いていくため、大会におけるシンポジウム・講演会の一般公開、中学校・高等学校での出前授業、学会70周年を記念した『和本図譜 江戸を究める』の刊行などをおこなっています。また、若手研究者の数が減少し、研究環境が厳しさを増すなかで、近世文学研究を志す若い研究者間の交流を促進するとともに、すでに研究者としての経歴を重ねた世代の会員との対話を活性化する試みにも取り組んでいます。
一方で、昨今は研究・教育機関におけるハラスメントの事例が多く報告され、ハラスメントの発生を許さない組織作りと、組織を構成する一人ひとりの意識の変容が求められています。また、研究倫理上の問題についても、研究者は従来以上に厳しく自らを律することが必要になっています。
もとより学会とは平等な資格によって参加した個人が、学術的な交流をおこなうことを目的とした場であり、年齢や学会内での役職の有無をはじめとするさまざまな要素・個人の属性は、会員その他学会に参加する者の間に権力関係を生み出すものでは、断じてありません。しかしながら、学会においても、それらの要素から生じる人間関係によって、一方の当事者が自らの意見を表明することにためらいを感じる、不快感や苦痛を感じるなどする状況が発生する可能性は存在します。
日本近世文学会では、社会の変化と、学会の活動によって会員間の交流機会が増え、学会外のさまざまな人々とも関係が生じていくことに鑑みて、従来は個々の会員の良心に委ねられていたハラスメントおよび研究倫理上の不正の防止について、学会として取り組んでいくべきであると判断しました。
多様な視点の共存は人文学にとって必要不可欠であり、そこに集まるさまざまな人々の安全を確保することは、われわれの学問にとって最重要の問題であると信じ、日本近世文学会はハラスメントや研究倫理上の不正を許さない組織を作り上げることを宣言します。
2024年6月8日
日本近世文学会